キャベツは至る所に

感想文、小説、日記、キャベツ、まじめ twitter ⇒ @kanran

『海に花を投げるように』

父さんは仕事ばかりしていた。ぼくが学校へ行く前には家を出ていて、ぼくが眠るまで帰ってこなかった。土曜日も日曜日も、持ち帰ってきた仕事にいそしんでいた。濃い言葉を交わし合った思い出が、ぼくと父さんの間には数えられるほどしか無い。わずかな数し…

ウイイレヤクザと郊外について

最近あまり耳にしないが、ひと昔前に「ユビキタス(遍在)」という言葉が流行った。端末さえあれば、誰もがネットに接続して、平等に情報を得られる、みたいな環境をあらわすのに使われた言葉だ。今や日本中の大体の人が、データベースとアーカイヴスを自由…

『時が何か告げてくれれば』

君は扇情的なロックバンドが大嫌いで、「病んでる」女性シンガーばかり聴いている。紺のソックスに締めつけられた足がいつもきれい。脛がれっきとしている。友達と連れ立ってトイレに行くけれど、いつもそれをつまらないと思っている。お弁当を持ってきてい…

『水中学校』

窓の外を、久しぶりに蟹が通った。海底にやっと届いた頼りない光をあつめて、甲羅は黒く輝いている。僕は理科室に向かう途中で、寄り道をしている暇はなかったのだが、自分たち以外の歩行する生物を見る懐かしさに、つい目を奪われていた。 「何してるんだ?…

ペンネンネンネンネン・ネネムズ 『whim』

whim アーティスト: ペンネンネンネンネン・ネネムズ 出版社/メーカー: PENNENNENNENNEN NENEMS RECORDS 発売日: 2016/09/14 メディア: CD この商品を含むブログを見る 純粋とは何かをかんがえた瞬間に、その人はもう永遠に純粋にはなれなくなる。まじりけの…

九月十一日 @ 久喜カフェクウワ

昼間のマーケットも可愛らしいものが目白押しで楽しかった(そしてクレープがうまかった)が、やはり目当ては夜のライブ。しかも出演する4組全組楽しみ。そして期待を裏切られないどころか全編興奮しっ放しだったので、久しぶりに長大なレポートを書きまし…

展示の準備に追われていて、日記や感想文を書く習慣から、すっかり離れてしまっていた。 南浦和の雑貨屋さん・MUKU MUKUで、書き下ろし短編小説『コード』の展示を行っています。不定休のお店なので、お店のTwitterなどから営業日をご確認の上お越しください…

『ヒメアノ~ル』について

映画『ヒメアノ~ル』、並びに原作マンガ『ヒメアノ~ル』についてのネタバレを多分に含みます。 赤字で注意喚起をしておいて何だが、恐らくこのエントリに辿り着く方は、『ヒメアノ~ル』について十分な事前知識を持っているだろう。前置きは省いて、感想を…

兄が通うプールがあったこともあり、幼稚園ぐらいの頃、よくジャスコに連れていかれた。プール自体は地下階にあったのかもしれないが、ぼくが入れたのは保護者用のプール観覧スペースがある地上一階までだった。出入口にジェラートショップと花屋が、外に出…

スピッツの新曲『みなと』が素晴らしい。近年のスピッツはメロディも歌詞もクリアーで、だからこそ演奏の小気味よさとか、フレーズのめざましさが際立って聴こえる。 『みなと』の一節で、判断に迷っているところがある。「己もああなれると信じてた」という…

スカート 『CALL』 (特に『アンダーカレント』について)

夏は乱痴気、秋は愁い、冬は憂鬱の季節。それなら春は物狂いの季節だ。 ぼくが三月生まれだから過敏であるのかもしれないが、春には色々なものが動き出す。虫たちの冬ごもりが終わって、桜が咲いて散り、秋の実りのために菜種梅雨の雨が土をうるおす。冬の静…

細野晴臣の『アンビエント・ドライヴァー』を読み始めた。Twitterでフォローしている方に勧めていただいた本だ。そのセンスと知識、電子音楽に関する審美眼に対して、全幅の信頼を寄せている方の勧めなので、きっと有意義な読書体験ができるだろうと思ってい…

3/17

夜勤に出るための通勤経路に、ひんぱんにキャリアカーが停まっているのを見かける。上層、下層に合わせて六七台は載せられるだろうか、自家用乗用車を満載にしているところにちょうど出くわす。集合住宅の多いエリアではあるが、ごく近くにディーラーがある…

3/16

友人二人とあらたまって音楽の話をしていて、自分は音楽を聴くときにずいぶん意味を重視しているものだ、と思い知らされた。 どんなにミニマルでも、曲には展開というか起伏が生じるから、同じ言葉を使うにしても、どこに配置するかで聞こえ方がまったく違う…

『ラヴ・アフェア』

オタクの小説です。

oono yuuki 『夜と火』

言うまでもなく、ぼくはブログをやっている。進んで文章を書くということは、言霊を信じているということに他ならない。 言葉は単なる記号ではなく、また単なる意味や概念の連なりでもない。いつもなら分かたれているものの境い目を少しだけあいまいにしたり…

原田茶飯事 『いななき』

「おれは若いころ、本のなんたるかを知る必要に迫られて何冊か読んだことがあるが、本はなにもいってないぞ! 人に教えられるようなことなんかひとつもない。小説なんざ、しょせんこの世に存在しない人間の話だ、想像のなかだけの絵空事だ。ノンフィクション…

2015年

1月 年が変わった直後、大晦日の朝までの夜勤を終えて、早い段階から飲んだくれたくせにチャンネルNECOでかかっていた『悪の教典』で映画初め。観終わった直後に染谷将太の入籍を知る。イメージフォーラムで『アルファヴィル』と『華氏451』、NHKの深…

高野文子『棒がいっぽん』

大学時代、先輩の家に泊めてもらった時に読ませてもらい、それから自分でも買った短編集。当時別の友人にガロを教えてもらっていたのに、『絶対安全剃刀』を先に読まなかったことは幸か不幸か。何にせよ一冊単位で言えば、自分のマンガの趣味の中で挙げざる…

『夜の緩やかな唸り』

夜の感覚の小説です。

butaji 『アウトサイド』

全ての曲が体に染みついて、どの曲も歌いたくなるようなアルバムをいつぶりに聴いただろうか。全10曲、34分。決して長くはない再生時間の中に、たくさんのファンタジーと切なさが込められている。 一曲一曲の意匠がものすごく丁寧なアルバムだ。ほとんど…

昔の着メロ

高校2年から4年半ぐらいdocomoのP505isを使っていたのだが、充電したらまだ起動した。せっかくなので電源が入るうちに、どういう着メロを使っていたか書き上げて、趣味の変遷というか「思い出のあの曲」のフックを記録しておこうと思う。たぶんほとんどがC…

ceroについて

VJの入っていないZeppのステージで、ceroは今夜、2曲目に『マイロストシティー』を持ってきた。以前のキラーチューンの筆頭であり、VideotapemusicのVJが入る時には、『汚れた血』のジュリエット・ビノシュがバンドの背後を彩っていた曲だ。その曲で、シン…

『息を殺して』@渋谷ユーロスペース

ジャケ買いしたノイズとかドローンのアルバムをかけて、その音像の見事さに聴き惚れていたら、体が震える轟音とか心を締めつける旋律にまで出くわしてしまった時のような、そういう感動をする映画だった。 2018年を迎えようとする年末、《国防軍》が海外活動…

入江陽『仕事』リリースパーティー@渋谷WWW

嵯峨谷でビールを二杯飲んできていた。OMSBのDJを、アルコールで神経を緩めて聴きたかったのだ。ぼくのヒップホップの趣味は元々狭い上、最近は全然過去作も掘っていないし新譜もチェックしきれていない。OMSBの属するSIMI LABも「名前は知っている」という…

スターダストディスクレビュー

goat / Rhythm & Sound 自分の感覚のチャンネルさえ合えば、概ねのミニマルミュージックは快楽的だが、goatの気持ちよさは深甚である。 ブラックミュージックの匂いがするという形容でも、露悪趣味とかネクラとかの言い換えでもなく、単純に「黒い」。黒色と…

ままごと『わが星』覚書

・久しぶりに「何も見えない暗闇」を体験して興奮した。帰り道「あの暗闇が恐かった」と述べる人を見かけた。ぼくは自分が思うより暗所への耐性があるのかもしれない。 ・演技だけでなく、フォーメーションダンスやラップを含んだシークエンスをミスなく(少…

『万年青抄』

ぼくは誰の眼も見たことがなかった。そもそも人の顔の造りを覚えたことがない。そんなことをしなくても、声や発音、身振り、体つきや髪型の輪郭だけで、人の見分けは充分つく。全く人の顔を見ない訳ではない。しかし、誰それの鼻筋や眼が美しいなどと言われ…

ここ最近聴いているアルバム

Family Basik『A False Dawn And Posthumous Notoriety』 加藤遊・加藤りまの2人による兄妹ユニットの1st。 茫漠としたトラックと、宅録の温かさが宿ったギター、(きょうだいによるデュエット特有の)説明しづらい近似を持つボーカルがあまりに心地良い。…

萩尾望都にまつわる雑感

『残酷な神が支配する』の内容に関して、ネタバレと呼べる言及をしています。

『風立ちぬ』について'87年生まれのオタクが思ったこと

『風立ちぬ』のネタバレとか、シーンや演出への直接的言及を幾ばくか含みます。

今年観に行ったライブで特に素晴らしかったもの

Twitterで何度も言っているが、今年は「これを観ただけで、生きていて良かったと言える」というライブに毎月のように行けたので、大変充実していたというか、今年は「もう年末?!」みたいな驚きが例年より薄い。備忘のために、そういったライブについてザッと…

夏から秋ぐらいによく聴いていたアルバム

yukaD『Exhibition』 ostooandellのギターボーカル、yukaDのソロアルバム。土井玄臣との対バンで初めてライブを観て、すぐに物販でコレ(とシングル『日帰りでいい』)を買った。ostooandellは2008年頃に存在を知って以来すごく好きだったのだが、ライブを観…

もう一冊いかがですか

本読みが好きな人には「何かもう一冊買いたい」と思う瞬間がある。目当ての本は見つけた、しかしレジへ向かうには何かが足りない。いま携えている本を読む前か後、もう一個食えるぐらいには腹が空いている――もう一冊欲しい。それはマンガ読みによくある欲動…

Rising Sun Rock Festival 2014 in EZO に行ってきたんだ−2

前日・前々日と早起きだった賜物か、果たしてアラームと共に起きられた。バス乗り場へ赴き、フェアリー・フォンテーヌへ。普段は行水ばかりだが、せっかくの大浴場なので風呂を堪能。体を洗い、露天風呂で朝日を浴びて完全に覚醒しておきながら、ゲルマニウ…

Rising Sun Rock Festival 2014 in EZO に行ってきたんだ−1

ライジングに来るのは去年・一昨年に続いて三度目。例年どおり札幌に前泊して、これまでの二年間で仲良くなったエゾロッカーの方々と飲んだくれたり、EZOorDIEさんの非公式前夜祭に遊びに行くなどして、最高のスタートを切ることとなった。 ホテルの食堂で朝…

早稲田松竹 8/02-8/08

『家族の灯り』 マノエル・ド・オリヴェイラ監督、2012年/92分。大学時代、講義で『アニキ・ボボ』と『神曲』を観たり、課外学習として『夜顔』を観に行くよう言われた作家、オリヴェイラ。その講義で映画を観ることの面白さに気づけたので、オリヴェイラ作…

最近聴いているアルバム

pupa 『floating pupa』 floating pupaアーティスト: pupa出版社/メーカー: EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)発売日: 2008/07/02メディア: CD購入: 9人 クリック: 84回この商品を含むブログ (221件) を見る確か最初に聴いたのは大学3年か4年ぐらいの頃で、当時はオ…

早稲田松竹 5/24-5/30

かなり久しぶりに、早稲田松竹に映画を観に行った。いつぶりかと気になってアーカイブスを見てみたら、去年の8月末にカサヴェテスの二本立て(『ラヴ・ストリームス』と『こわれゆく女』)を観て以来だ。半年以上。その間、観たかったプログラムがいくつもあ…

ごく私的な2011年3月1日の足取り

休日だった。バフマン・ゴバディ監督の二本立てを朝イチの回から観ようと、高田馬場の早稲田松竹へ赴いていた。『亀も空を飛ぶ』も、『ペルシャ猫を誰も知らない』もすばらしくて、家に帰って夕食を作ったら、気合を入れて感想を書くつもりでいた。 二本立て…

Alfred Beach Sandal について

まずもって、ぼくはアルフレッドビーチサンダル主宰、すなわち北里彰久の音楽が大好きで、ファンとして屈服さえしている。音源がリリースされたなら発売日に買いたい。予定が合う限りライブに行きたい、っていうかつまんない用事なら蹴っ飛ばしてライブに行…

『ドリフト』

山とも森とも呼べるところに踏み入ってからしばらく経つのに、全然動物を見つけられないでいる。このあたりの土地に、最後に雨が降ったのがいつだか知らないが、土がぬかるんでいて、革靴の底が滑る。こんな所を歩く格好ではない。望ましい装備ではまるでな…

今年聴いてるやつ

TNTアーティスト: Tortoise出版社/メーカー: Thrill Jockey発売日: 1998/03/10メディア: CD クリック: 95回この商品を含むブログ (88件) を見る向こう10年聴くと思う。「シカゴ音響派の金字塔」という表現を引き出してくると、かえって二の足を踏んでしまう…

『分からない』

ぼくたちはずっと、何でもかんでも分かりたがってどうしようもない。そのくせ評論家のことは扱き下ろす。 実際、評論家になんてなりたくない。見つけてきた問題に自分なりの結論を出して、落ち着きたいだけなのだ。自分の理屈が正しいということを心の底から…

ル・プティ・テ 1-1

身近な気になる人とお茶などシバきつつ、気の向くまま喋ったことを文字に起こしてみよう、という企画。記念すべき第一回目のお相手は、大学時代の先輩である「さば」さん。映画とMO'SOME TONEBENDERとRSRとビールとパクチーを愛するステキな方です。 さばさ…

今年に入って読んだイイ漫画

本棚がパンクしているので長編の一気買いが出来ない。 岡崎京子に狂ったり、少女マンガにハマッたりした時期があるので、元々1巻完結とか短篇集には弱い。ということで今年はこんなアタリに出くわしている。珈琲時間 (アフタヌーンKC)作者: 豊田徹也出版社/…

山本直樹自薦短篇集

ぼくは高校の時に、ブックオフで『ありがとう』を全巻読んで以来、山本直樹がすごく好きだ。とても面白いと思う。 『ありがとう』は、90年代にじっくりと崩壊を続けていった《家族》というコミューンについて、すごく過激に、でも幾許かの希望とか愛情を含…

2011のシネマ・5

テオ・アンゲロプロス監督の『エレニの旅』を観た。多分今年の上半期に観た映画の中で、一番胸に響いた作品。【170分 ギリシャ・フランス・イタリア・ドイツ】ロシア革命によってオデッサを追われ、難民となったギリシャ人たちの行進を描くのが、ファース…

2011のシネマ・3,4

続けざまにフィリップ・ガレル作品の感想をば。 『白と黒の恋人たち』 【2001年 117分】映画監督・フランソワは女優志望のリュシーと出会い、恋に落ち、彼女を新作の主役に抜擢する。ドラッグを批判するその映画のモデルは、フランソワのかつての恋人…

2011のシネマ・2

『トイレット』と一緒に観た『川の底からこんにちは』について。 久しぶりにレビューめいたものを書くと、今の自分の関心事にスイッとコネクトしちゃってイカンな、と痛感しております。 『川の底からこんにちは』 【2010年 112分 監督:石井裕也】 …