キャベツは至る所に

感想文、小説、日記、キャベツ、まじめ twitter ⇒ @kanran

『夜祭り』

木々は昼間の雨をよく閉じ込めて、闇を柔らかく湿らせていた。夏のものとは思えない冷気のかたまりが、時々ぼくを撫でた。枝だろうが葉だろうが見分けないまま掻き分けて、注意深く傾斜を降っていくうちに、ぼくの服は確かに濡れていった。灯りから遠く離れ…

『アルビュメン・プリント』

夜のうちに乾いた汗は肌を甘やかし、いかなる温度も眠りから締め出してしまう。雨脚と共に激しくなった僕たちの生理は、シーツを温く、後に冷たくした。 息を継ぐのに動きを緩めた時、不意に思考力を取り戻した頭の中に、「溶」という字が浮かんだのを何とな…

『海に花を投げるように』

父さんは仕事ばかりしていた。ぼくが学校へ行く前には家を出ていて、ぼくが眠るまで帰ってこなかった。土曜日も日曜日も、持ち帰ってきた仕事にいそしんでいた。濃い言葉を交わし合った思い出が、ぼくと父さんの間には数えられるほどしか無い。わずかな数し…

ウイイレヤクザと郊外について

最近あまり耳にしないが、ひと昔前に「ユビキタス(遍在)」という言葉が流行った。端末さえあれば、誰もがネットに接続して、平等に情報を得られる、みたいな環境をあらわすのに使われた言葉だ。今や日本中の大体の人が、データベースとアーカイヴスを自由…

『時が何か告げてくれれば』

君は扇情的なロックバンドが大嫌いで、「病んでる」女性シンガーばかり聴いている。紺のソックスに締めつけられた足がいつもきれい。脛がれっきとしている。友達と連れ立ってトイレに行くけれど、いつもそれをつまらないと思っている。お弁当を持ってきてい…

『水中学校』

窓の外を、久しぶりに蟹が通った。海底にやっと届いた頼りない光をあつめて、甲羅は黒く輝いている。僕は理科室に向かう途中で、寄り道をしている暇はなかったのだが、自分たち以外の歩行する生物を見る懐かしさに、つい目を奪われていた。 「何してるんだ?…

ペンネンネンネンネン・ネネムズ 『whim』

whim アーティスト: ペンネンネンネンネン・ネネムズ 出版社/メーカー: PENNENNENNENNEN NENEMS RECORDS 発売日: 2016/09/14 メディア: CD この商品を含むブログを見る 純粋とは何かをかんがえた瞬間に、その人はもう永遠に純粋にはなれなくなる。まじりけの…

九月十一日 @ 久喜カフェクウワ

昼間のマーケットも可愛らしいものが目白押しで楽しかった(そしてクレープがうまかった)が、やはり目当ては夜のライブ。しかも出演する4組全組楽しみ。そして期待を裏切られないどころか全編興奮しっ放しだったので、久しぶりに長大なレポートを書きまし…

展示の準備に追われていて、日記や感想文を書く習慣から、すっかり離れてしまっていた。 南浦和の雑貨屋さん・MUKU MUKUで、書き下ろし短編小説『コード』の展示を行っています。不定休のお店なので、お店のTwitterなどから営業日をご確認の上お越しください…

『ヒメアノ~ル』について

映画『ヒメアノ~ル』、並びに原作マンガ『ヒメアノ~ル』についてのネタバレを多分に含みます。 赤字で注意喚起をしておいて何だが、恐らくこのエントリに辿り着く方は、『ヒメアノ~ル』について十分な事前知識を持っているだろう。前置きは省いて、感想を…

兄が通うプールがあったこともあり、幼稚園ぐらいの頃、よくジャスコに連れていかれた。プール自体は地下階にあったのかもしれないが、ぼくが入れたのは保護者用のプール観覧スペースがある地上一階までだった。出入口にジェラートショップと花屋が、外に出…

スピッツの新曲『みなと』が素晴らしい。近年のスピッツはメロディも歌詞もクリアーで、だからこそ演奏の小気味よさとか、フレーズのめざましさが際立って聴こえる。 『みなと』の一節で、判断に迷っているところがある。「己もああなれると信じてた」という…

スカート 『CALL』 (特に『アンダーカレント』について)

夏は乱痴気、秋は愁い、冬は憂鬱の季節。それなら春は物狂いの季節だ。 ぼくが三月生まれだから過敏であるのかもしれないが、春には色々なものが動き出す。虫たちの冬ごもりが終わって、桜が咲いて散り、秋の実りのために菜種梅雨の雨が土をうるおす。冬の静…

細野晴臣の『アンビエント・ドライヴァー』を読み始めた。Twitterでフォローしている方に勧めていただいた本だ。そのセンスと知識、電子音楽に関する審美眼に対して、全幅の信頼を寄せている方の勧めなので、きっと有意義な読書体験ができるだろうと思ってい…

3/17

夜勤に出るための通勤経路に、ひんぱんにキャリアカーが停まっているのを見かける。上層、下層に合わせて六七台は載せられるだろうか、自家用乗用車を満載にしているところにちょうど出くわす。集合住宅の多いエリアではあるが、ごく近くにディーラーがある…

3/16

友人二人とあらたまって音楽の話をしていて、自分は音楽を聴くときにずいぶん意味を重視しているものだ、と思い知らされた。 どんなにミニマルでも、曲には展開というか起伏が生じるから、同じ言葉を使うにしても、どこに配置するかで聞こえ方がまったく違う…

『ラヴ・アフェア』

オタクの小説です。

oono yuuki 『夜と火』

言うまでもなく、ぼくはブログをやっている。進んで文章を書くということは、言霊を信じているということに他ならない。 言葉は単なる記号ではなく、また単なる意味や概念の連なりでもない。いつもなら分かたれているものの境い目を少しだけあいまいにしたり…

原田茶飯事 『いななき』

「おれは若いころ、本のなんたるかを知る必要に迫られて何冊か読んだことがあるが、本はなにもいってないぞ! 人に教えられるようなことなんかひとつもない。小説なんざ、しょせんこの世に存在しない人間の話だ、想像のなかだけの絵空事だ。ノンフィクション…

2015年

1月 年が変わった直後、大晦日の朝までの夜勤を終えて、早い段階から飲んだくれたくせにチャンネルNECOでかかっていた『悪の教典』で映画初め。観終わった直後に染谷将太の入籍を知る。イメージフォーラムで『アルファヴィル』と『華氏451』、NHKの深…

高野文子『棒がいっぽん』

大学時代、先輩の家に泊めてもらった時に読ませてもらい、それから自分でも買った短編集。当時別の友人にガロを教えてもらっていたのに、『絶対安全剃刀』を先に読まなかったことは幸か不幸か。何にせよ一冊単位で言えば、自分のマンガの趣味の中で挙げざる…

『夜の緩やかな唸り』

夜の感覚の小説です。

butaji 『アウトサイド』

全ての曲が体に染みついて、どの曲も歌いたくなるようなアルバムをいつぶりに聴いただろうか。全10曲、34分。決して長くはない再生時間の中に、たくさんのファンタジーと切なさが込められている。 一曲一曲の意匠がものすごく丁寧なアルバムだ。ほとんど…

昔の着メロ

高校2年から4年半ぐらいdocomoのP505isを使っていたのだが、充電したらまだ起動した。せっかくなので電源が入るうちに、どういう着メロを使っていたか書き上げて、趣味の変遷というか「思い出のあの曲」のフックを記録しておこうと思う。たぶんほとんどがC…

ceroについて

VJの入っていないZeppのステージで、ceroは今夜、2曲目に『マイロストシティー』を持ってきた。以前のキラーチューンの筆頭であり、VideotapemusicのVJが入る時には、『汚れた血』のジュリエット・ビノシュがバンドの背後を彩っていた曲だ。その曲で、シン…

『息を殺して』@渋谷ユーロスペース

ジャケ買いしたノイズとかドローンのアルバムをかけて、その音像の見事さに聴き惚れていたら、体が震える轟音とか心を締めつける旋律にまで出くわしてしまった時のような、そういう感動をする映画だった。 2018年を迎えようとする年末、《国防軍》が海外活動…

入江陽『仕事』リリースパーティー@渋谷WWW

嵯峨谷でビールを二杯飲んできていた。OMSBのDJを、アルコールで神経を緩めて聴きたかったのだ。ぼくのヒップホップの趣味は元々狭い上、最近は全然過去作も掘っていないし新譜もチェックしきれていない。OMSBの属するSIMI LABも「名前は知っている」という…

スターダストディスクレビュー

goat / Rhythm & Sound 自分の感覚のチャンネルさえ合えば、概ねのミニマルミュージックは快楽的だが、goatの気持ちよさは深甚である。 ブラックミュージックの匂いがするという形容でも、露悪趣味とかネクラとかの言い換えでもなく、単純に「黒い」。黒色と…

ままごと『わが星』覚書

・久しぶりに「何も見えない暗闇」を体験して興奮した。帰り道「あの暗闇が恐かった」と述べる人を見かけた。ぼくは自分が思うより暗所への耐性があるのかもしれない。 ・演技だけでなく、フォーメーションダンスやラップを含んだシークエンスをミスなく(少…

『万年青抄』

ぼくは誰の眼も見たことがなかった。そもそも人の顔の造りを覚えたことがない。そんなことをしなくても、声や発音、身振り、体つきや髪型の輪郭だけで、人の見分けは充分つく。全く人の顔を見ない訳ではない。しかし、誰それの鼻筋や眼が美しいなどと言われ…