キャベツは至る所に

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I’ll be your mirror (Curated by ATP)

2/27に、新木場STUDIO COASTにて催されたフェスティバル、I'll be your mirrorに行ってきた。
All Tomorrow's PartiesとかI'll be your mirrorとかいうから、モロにVelvet Undergroundリスペクトなフェスなのかと思いきや、それはぼくの無知のなせる想像で、ATPというフェスを変形させての日本初輸入イベントがI'll be your mirrorというものらしい。

ATPというのは毎回一人のミュージシャンがキュレーターとなり、ラインナップを決めるという面白いフェス。I'll be your mirrorは日本への輸出の先駆けとして、クリエイティブ・マンの興業のもとブチ込まれたいわば前菜とのこと。
友人S.M(よくできたイニシャルだ)に誘われてチケットを取ったのが昨年の暮れ頃だったが、12/25に悪友Y.Mと六本木スーパーデラックスで山本精一スイミンショーを観に行った折「2月に友達とI'll be your mirror行くんだ」と向こうから切り出され、その出来事を先輩に話したら「チケット取れたら私も行く」と言われ、知り合いがゴロゴロ集うイベントになっていったのが面白かった。
思えばSTUDIO COASTで、V∞REDOMSSonic Youthジョイントを観に行った時もS.MもY.Mも先輩も来ていた。去年の法政のフリーライブでも、示し合わせてないのに出くわした知り合いがいたりして、個々の断絶が叫ばれる当節でも然るべき所には然るべき人が集まるもんだ。


BOREDOMS


ごった返すバーカウンターでS.Mと先輩と一杯ひっかけた後、さっそくオープニングステージを観ようと移動。懐かしの木のフロア! 何の効果を狙ってか、中央にガードが設置されていた。ただまあ初っ端から踊り狂うこともあるまいと、ガードの手前辺りに陣取る。
オープン待ちとかスタート待ちとかの時、一人でいるのと友達がいるのでは全然違っていいなーなどと思っているうちに開演。フェスのスタートというだけあって感慨ひとしお。
ぼくは3ドラム1DJのボアしか知らないので、千住宗臣が脱退して以後のボアのメンバーの変遷には明るくなかったが、6ドラム+山塚アイってスゴいな!
プロジェクターにステージの映像が映し出されて、オーディエンスが一気に興奮したのを鮮明に覚えている。円を描くように並んだ6つのドラムセット、中央に空けられた人ひとりぐらいが余裕を持って立てそうなスペース。
メンバーが次々ドラムのそばに座り、最後にアイが中央に立つ。アイが手をドラムセットにかざすと電子音が流れる。テルミンのような仕組みなのだろうが、後から思うと、一定の範囲に手が近づいたから一つの音色のピッチやシフトや音量が変わるというものではなかったように思う。

とにかく発散されるエネルギーがめちゃくちゃ多いステージだった。3ドラムの頃の精妙なコンビネーションは既になかった。もちろん随所に統制が効いたパートはあるんだけど、「スコアなんてあったらこんな風にできないだろうな」という時間がほんとに多い。V∞REDOMSを観た知人は全員「あれは音楽じゃなくて儀式だよ」と言ったもんだけど、そういう要素がすごく強くなっていた。6人のドラマーによるフルストロークの同期ってもはやリズムとかビートとかというより音波と呼ぶべきだ。アイが時々見せるジェスチャーなどが合図となって照明が変化したのもシンプルでよかった。

ドラムセットの上からのアイのジャンプに合わせて終演。セットに登ってる最中からもう「あー、終わる、終わっちまう」と思っていたのが懐かしまれる。直後、今までライブで出した中でも多分一番デカい声で「YEAH!」と叫んでいて、ああ今日起こることはそうそう忘れまい、と思った。


◯ うろうろ


頻繁に「スゴい」と発音しながらS.Mらと連れ立ってバーカウンターへ……行こうと思ったらどこもかしこも激混み。仕方なくトイレを優先し、ついでにもう一個のバースペースへ足を伸ばすもそっちも激混み。仕方なくそこでハイネケンを買い、ちびちびやりつつバーの方へ戻っても、当然ながら知った顔はもうなかった。
まあ彼女らはケータイ持ってるしすぐ会えるだろ、と思い、ケータリングの唐揚げとポテトで腹ごしらえしてるうちに、Y.Mとその友人であるJ.O(a.k.a 幕末)氏と出くわす。J.O(a.k.a 幕末)氏は、Y.Mの大学時代のサークル仲間で、ぼくは彼らがギャング・オブ・フォーのコピーをやるのを撮影した過去がある。Y.Mは朝一のステージだというのにオールラウンドサークルの女子部員を罵倒するわ卑猥な放送禁止用語は連呼するわピンボーカルのくせにシンバルを叩いて挙句の果てにシンバルスタンドを踏み壊すわで大変面白かった。証拠映像はDVDに焼いて先輩にレンタルしている。
ビールをやりつつ、3人でしばらく音楽談義。最近何聴いてるの? とか、S.Mさんは何聴く人なの? とか。


灰野敬二


あれ、ステージ2混んでねえ? ということで灰野敬二を観に移動。ぼくらが向かった時には入場規制が始まっていた。ちまちま進んでいるうち、ぼくらのすぐ前にいた白人男性が連れの女性を肩車して係員に怒られた。男性がそこそこネイティブな発音で「だって見えないんだもん!」と(日本語で)笑いながら不満を吐いたのが面白かった。
ステージ2は縦長の構造で、骨組みに幌を張ったようなつくりだった。途中退場者が多かったが、入場してもなおスシ詰めだし距離はあるしで、灰野敬二の姿は僅かにしか見えなかった。純然たるノイズ、というノイズが会場中にひしめく一曲目(の後半)と、鬼気迫る三味線の弾き語り、続いて変わらぬ轟音で展開した三曲目の前半までを見て、尿意・眠気・このまま最後まで観てたらあとのアクトを聴くにあたって差し障りがあるのでは? と感じたのでぼくも途中退場。


◯ うろうろ


ステージ1に戻ると、ちょうどBORISがステージを終えるところだった。最後尾でそれを見届けてブラブラしていると、Y.Mとエンカウント。この時にはPM5:30過ぎで、暗いよ! もはやさみーよ! と言いつつまたもケータリングで塩牛丼など食べてエネルギーを補給する。
この時にはENVYの入場規制が始まっていて、こりゃステージ2には戻れないな、とロッカー前でチルする。楽しいけど寒いし集客とハコのサイズが合ってないよね、とグチる。Y.Mなど「メッセ半分ぐらい使ってやりゃいいんだよ」と言う始末。ぼくが「そんで残り半分で合同説明会とかやるんだろ?」と言うと「そんで企業の人に怒られればいいんだよ」とのこと。実際そうなったら面白そうだけど「どっちにも行きたい」って学生も出るだろうな。リクルートスーツでATPのパーティに来る日本人ってのもいいな、エコノミックアニマルな感じで。
ともあれ、これは最後まで感じたことだった。STUDIO COASTはいいハコだと思う。贔屓のバンドが、AXとかじゃなくて新木場でツアーを〆てくれることを嬉しがるファンは多いと思う。でもI'll be your mirrorはまがりなりにもフェスだ。ライブならともかく、その日一日を楽しみに来てるのに、いつどこに行っても混んでて席に座るのも困難で、かといって快適に座れるフリースペースもないというのはちょっと辛かった。
この時には疲れが一つのヤマを迎えていて、ぼく一人でちょっとAUTOLUXのステージを覗き、あれっ一頃のSonic Youthみたいでかっこいいぞと思ったけど、集中して観れそうになかったので離脱してしまった。後からYouTubeで聴いたらやっぱりかっこよくて、タイミングが合わなかったことを後悔。


ヤン・シュヴァンクマイエル『JABBERWOCKY』


寒くなってきたので屋内に入り、ちょっとシネマ・スペースで休む。2つのステージでライブが同時進行するだけでなく、一つの区画では映画が流しっぱなしになっているのだ。¥7,800+1Dのイベントとはいえ、ずっと映画だけ観ていた人もいたんじゃないだろうか?
ぼくとY.Mが観たのは、シュヴァンクマイエルルイス・キャロルの『ジャバウォックの詩』を基に撮った短編。後輩に教えられて知った作家だけど、並々ならぬ労力と、日本人からはゼッタイ自然には出てこない発想とセンスで作られたアイテムには、物の見事に酔わされる。柄が人形のようになっている折りたたみナイフが飛び回って、最後には刃を仕舞って転がると血が流れ始めるパートなど、なんでこんなにグロテスクなのにポップなんだろうと感動してしまった。


◯ マヤ・デレン 『MESHES OF THE AFTERNOON』


40年代に撮られたアメリカ映画なんてたぶん観たことない。
役者のジェスチャーと変則的なカメラワークだけで、上下の混乱とか、(映像的な)重力の無視とかを表現する実験映像。その中で描かれるのはいわゆる現実と虚構の混濁。実験的なパートは、チープといえばチープともいえるんだけど何か違うんだよな。チープというには飽きが来ない。約15分、ほとんど退屈しなかった。
会場の雰囲気っていうか、I'll be your mirrorで観たからそう思ったのかも知れないけど。YouTubeにもあるみたいだけど、PCで観るとあんまりハマれないと思う。
結局観られなかったけど、あそこで『アンダルシアの犬』観てもいい体験になっただろうなー。


◯ FUCK BUTTONS


そろそろライブ観るべ、ということでY.Mとステージ1に移動。二人とも疲れがまだまだ溜まっていて、あまり集中して観ていない。Y.Mに至っては座り込んで寝る始末。ぼくは覚醒して観ていたが、Metamorphoseとかってこういうノリなのかな? という印象。ただテクノとかトランスとか呼ぶには不純物がドロドロ入っていて、それが気持ちいいグルーブになってノれる感じがたまらない。


◯ DIRTY THREE


同じ位置に居座って、チョッ早でセッティングが変わるのを観ていた。この時点でステージ1は40分押しで、自宅から来た方たちは終電を危ぶみ始めたことだろう。
ギター・ドラム・バイオリンという3ピースバンドだったが、これがまた本当ストレートにかっこいい。ギターとドラムが作った基盤の上で、悲壮なバイオリンが躍って、大変美しい。バイオリニストは結構な歳に見えたけど、自分の顔の高さまで片足を振りあげてのパフォーマンスは拍手を惜しめないかっこよさ。
通訳(っていうか普通にローディーっぽい男の人)を呼んで軽口を叩いてたけど、翻訳に先んじて英語圏の人が笑うのがなんかちょっと面白かった。


◯ うろうろ


ロッカーを共有していたので、ここらでS.Mと合流。偶然J.O(a.k.a 幕末)氏ともエンカウント。3人で梅ジュースを啜る。この梅ジュース(¥300)にしたって「梅よろし」とそうそう変わんないクオリティだが、¥300出してクリスタルガイザー飲むのもバカらしい。
J.O(a.k.a 幕末)氏はY.Mとロッカーを共有していたらしいが「Y.Mが携帯を持たずに入場していて合流できない」と嘆いていた。ほんとあいつクズだよね、と親愛に満ちた陰口に花を咲かせた。


Godspeed You! Black Emperor


この人たちのライブを生で観られて本当によかった。本当に久しぶりに、本当に心底「このまま死んでもいい」と思った。正直なところ、この時には眠気がピークに達していて、S.Mと一緒に柱に凭れて寝てる時間も多かったのだが、それは演奏によって溢れたアルファ波によるところも絶対大きい。
スクリーンには、古めかしい設計図とか古地図みたいなモノの断片的な映像が映し出されて、ストリングスの茫漠としたメロディと、ストリングスとは決して殺し合わないノイズがのべつ流れて、この他にはあり得ないというタイミングでドラムのビートが挿入される。
体が動くとか、頭が揺れる気持ちよさではない。歌が口を衝いて出たり、叫びが込み上げてくる気持ちよさでもない。ああ、このまま意識を手放してもいい、忘れないように努めてきた―― 何なら体に直に刻みつけてきたものを、全部かなぐり捨ててもいいと思うような、そういう類の快楽が満ちていた。


◯ 総括


音楽の魅力の種類として「気持ちいい」って大変重要なものだ。最近は素直な気持ちよさにより惹かれていて、メロディがいいとかリズムがタイトだとか音色がどうとか気にしていて、古いタイプのロック、それこそビートルズとかキンクスとか、ディスコソングとか、空気公団とか、いわゆる名曲であるところの「マイ・ウェイ」とか聴いていた次第なのだが、I'll be your mirrorに一貫していた別種の気持ちよさに久しぶりに浴して、やっぱりこういうのもいいわ、と思った。

ノイズの快さというのは、<自然な認識として在る《不快指数》を無視する>という不自然さにこそある。ざっくばらんに言ってしまえば、ノイズを好むことができる人はあまねく貪欲だ、とも言えるかもしれない。
快音でないものまでから気持ちよいものを発見してしまう乱暴さ。それを単なる錯覚だと言う人もいるだろう。「難解なものを珍重して、違いが分かる通ぶりたがっているだけだ」と。しかして確かにぼくたちはアガっている。
七尾旅人は名曲『天使が降り立つまえに』で、「会えない人たちは恥じればいいだけさ」と歌う。あまり声を大にして言いたいことではないが、分からない人には分からないことがこの世には厳然としてある。それを分かったから偉いわけではない。しかし自分から突っ込んでのめり込まないと楽しめない難しさみたいなものが、I'll be your mirrorで接した音楽には含まれていて、国籍とかファッションとかは散漫なまま、そういう難しさには一挙に向かっていく「キモさ」みたいなものがオーディエンスに共通していたように思う。今の日本の音楽シーンという観点で言えば、ほんとにちっぽけな異常な運動だったのかもしれないけど、やっぱりすごく興味深くて楽しいフェスだったと思う。ATP JAPAN、開かれてほしい。


◯ 少し思うところ


フェスを楽しむためのツールとして、SNSってアリなんだな。友達の動向をスムーズに掴めるし、合流も簡単だし、良きにつけ悪しきにつけ起こるアクシデントにも順応できるし。ぼくは普通のケータイを用いてTwitterを使っただけなので準・堪能ってな感じだが、実際スマートフォンを使う人間を多く観たし、ぼくのハンパなツイートを拾ってもらえたりした。どうなんだろ、スマホでコミュニケーションしつつ楽しむフェス、っていうのが流行ったら「近頃の若い者は」的バッシングあるのかな。フェスに来るいい年の人たちは皆スマホ使うのか? まあ年にはよらないか。ドロップアウト感丸出しの長髪のオジサマ方がスマホ使うのは想像しづらい。