自作
アコースティックギターに深いリバーブがかかっている。長く続く残響に合わせたゆっくりとした指弾きは、聴く側を焦らすほどなだらかな起伏しか描かないが、その退屈さすれすれの遅さに色気がある。一曲目の出だしで、こうも遅く、そして歌をなかなか入れず…
君は僕の家まで駆けてきた。そして、前触れなく玄関を開けた僕を見て、驚きながら笑った。待ち合わせをした場所で、相手から驚かれたことはない。来ると分かっているものには驚けない。君は約束がどんなものだか分かっているから驚いた。 一瞬、体の内側いっ…
オタクの小説です。
夜の感覚の小説です。
山とも森とも呼べるところに踏み入ってからしばらく経つのに、全然動物を見つけられないでいる。このあたりの土地に、最後に雨が降ったのがいつだか知らないが、土がぬかるんでいて、革靴の底が滑る。こんな所を歩く格好ではない。望ましい装備ではまるでな…
ぼくたちはずっと、何でもかんでも分かりたがってどうしようもない。そのくせ評論家のことは扱き下ろす。 実際、評論家になんてなりたくない。見つけてきた問題に自分なりの結論を出して、落ち着きたいだけなのだ。自分の理屈が正しいということを心の底から…