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キャベツは至る所に

感想文、小説、日記、キャベツ、まじめ twitter ⇒ @kanran

ル・プティ・テ 1-1

身近な気になる人とお茶などシバきつつ、気の向くまま喋ったことを文字に起こしてみよう、という企画。

記念すべき第一回目のお相手は、大学時代の先輩である「さば」さん。映画とMO'SOME TONEBENDERとRSRとビールとパクチーを愛するステキな方です。
さばさんとは一緒にライブに行ったり、ベトナム料理とかホルモン食いに行ったりもしましたが、サシでカラオケに行き2,3時間に渡って好きな曲をブチかまし合った挙句、HUBで安いカクテルを飲みながら『パリ、テキサス』の話をして大変楽しかった記憶が、この企画を始めるに至った動機であります。
「さばさんと話すなら映画についてだ」と思って企画の趣旨を説明したところ、ありがたいことに快諾していただき、今回の会合に至ったのでR。

録音日は4/14、場所は星乃珈琲店・新宿東口店。
名物であるスフレパンケーキ(マジうまい)を貪り食ったり、カオシレーター楽しいですよ、と録音した音をお聞かせして販促まがいのことをしたりした後、徐々に話題は映画の方へ。
さばさんが映画にハマっていったのは、高校2年の時、地元の映画祭を通じて知り合った方に勧められて観た、マルセル・カルネの『天井桟敷の人々』や、映画祭で観た鈴木清順の『陽炎座』や『ツィゴイネルワイゼン』だった、というお話から始まって……。

 
さば:その後『陽炎座』とか『ツィゴイネルワイゼン』は観る機会が多かったんだけど、『天井桟敷の人々』は意外にやらなくて、名画のくせに。

 ―― 名画のくせに(笑)。

さば:そう、名画のくせに(笑)。だからもう大分記憶が薄れちゃってるんで。下高井戸シネマ行けなかったから、やっぱり観たいなあって。アテネ・フランセあたりでまたやんないかしら。とりあえず「アテネ・フランセの会員になるとシネフィルへの第一歩」みたいな(笑)。

 ―― ハハハ。一般的なイメージとして。

さば:あそこの会員になって、シネマヴェーラの支配人と仲良くなると「第一歩」(笑)。……何から話せばいいかしら(笑)。

 ―― (笑)えーと、ぼくが人より映画を観るようになったのってここ数年なんですけど。今になって思いますけど、意識して映画観るようになるのって、キッカケの一本っていうか、この時にコレを観たから「映画を本気で観よう」って考えに至ると思うんです。それが高校の時の……?

さば:えーと、まず高校の時に映画を好きになった理由は、私、まず永瀬(正敏)さんと浅野(忠信)さんを好きになっちゃって。その時期あの二人が結構忙しくて映画バンバン出てて、あの二人も元々映画好きだから「こういう映画に影響受けました」って言ってて。その辺でムラジュン村上淳)とかも好きになっちゃって、ムラジュンが地元の映画祭に出るって知って「これは行かなきゃ」と思ってたら、そこでボランティアスタッフを募集してて、「スタッフになったらもっと近くに行けるじゃん!」という不純な動機からその団体に入って、色々映画好きの人と知り合って、上映会も手伝ったりして。ホント最初の動機は超分かりやすくて、「俳優さんがカッコイイ」っていう所からなんだよね。

 ―― でも、さばさんとは、割合としてバンド・漫画の話をするのが主だったので、正直初めの印象は「そっち(の畑の人)」だったんですけど、今となっては完全に「映画の人」として見てますよ。

さば:あ、ホントに(笑)? でも高校・大学の頃は邦画ばっかり観てたし、俳優さん目当てで観ることも多かったし、これがいい・あれがいいって分かるようになってきたのは(大学の)映画論の授業を受けてからかなあ、と思う。

 ―― ぼくは3年の時に(その授業を)取ったんですけど、さばさんはその前の年に……。

さば:そうそう。私も3年の時に取って、4年の時は普通に面白いから聴いてる、みたいな。

 ―― 履修済みのモグリとして。

さば:そう(笑)。

 ―― ぼくも藤崎先生*1に教わって、映画ってこういう観方があるんだ、っていうか、「観方を覚えるとこんなに豊かなんだ」って。

さば:あそこでストーリーに引っ張られない観方っていうか、「ここで音楽がこう入って、カメラが俯瞰になることに意味があって」とかっていう観方が判って。カットの切り方にセンスがある・ない、っていうのもそこで判った気がする。

 ―― 物語を表現するものだと思ってたんですよね。

さば:私もそう思って観てた。脚本が第一、みたいなところがやっぱりあったんだけど、でも、そんなこと言ったら確かにゴダールの脚本なんか、もうムチャクチャなんだよねえ。破綻してるのにムチャクチャ面白い理由はそういうことか! みたいな。

 ―― (授業の)初回に、『パリところどころ』の、ジャン・ルーシュの『北駅』を流してて、15分3カットで云々、という話を聴いて「ああ、こんな映画があるんだ」と思ったんですが、さばさんの年は?

さば:私も、受けた年に初めて観たのは『北駅』だと思う。初めに「この授業は超厳しい」とか脅し文句かけて、「残った皆エライ」ってちょっとデレる、っていう恒例のをやって(笑)。

 ―― 「厳しい」「バリバリ落とす」って言われて、ぼくA貰いました。

さば:私も(笑)。

 ―― ぼくも先生に教えていただいて、シネマヴェーラだのイメージフォーラムだのを覚えて、まさに『選挙』を観に行って。

さば:そっか、(『選挙』がかかったのは)イメフォだったもんね。

 ―― あの年は、『選挙』を観に行きなさい、と大変なお勧めで。

さば:途中までビデオで観せられてね。あれがなかったら想田(和弘)監督も観てない。

 ―― 結局それを皮切りに、さばさんとは観察映画を3本ともご一緒させて頂いてるという……。

さば:そうだね(笑)、今度の秋にぜひまた。

 ―― 『演劇』1・2を。

さば:すごい楽しみ。

 ―― まさに想田監督の作品は、お話なんて無いのにあんなに面白いですからね。

さば:ねえ。本当にまんま撮ってるだけなのにあんなに面白いっていうのは……すごいよねえ。カメラの視線の勝利って感じだよ。

 ―― そして編集の技術ですよね。

さば:ね! わざと時系列も入れ替えてます、っていう。

 ―― 全然テーマと関係ない……っていうかテーマを設定なさらないそうですけど*2、平凡な街の風景とか、花とかを撮るじゃないですか。あれがすごいんですよね。あれでリズムが出来るんですよね。

さば:インタビュー終わった後にサーッと入るじゃん。あのカット撮ってたのもすごいし、そこに持ってくるっていうのも絶妙だし。

 ―― あれはホントにセンスですよね。

さば:本当にそう思う。

 ―― この前ツイートした「イメフォの階段のぼる」は、映画好きのフォロワーさんのパクリなんですが……。

さば:そうだったんだ(笑)。登ってっても天井が見えちゃう、しかもチラシが結構あるから登りにくい……。でも人が溜まってくると、あそこに登らないと立ってられない(笑)。

 ―― この前も、足元に『KOTOKO』のフライヤーがあって、緊張しました。

さば:(笑)あっ、『KOTOKO』ねえ、結構いいですよ。絶賛まではしないけど、塚本晋也の中ではぜんぜん違う作品になってて、塚本作品観てる人が観たら、かなり面白いと思う。

 ―― ぼく実は『鉄男』しか観てないんです。

さば:あっ、ホント? 『六月の蛇』と『鉄男』の二本立てを、確かキネカ大森で、今日からやってるので是非。『六月の蛇』が一番好きなので、超観て欲しい。……っていうか私、なんだかんだで塚本作品全部観てるんだけど、あっ、『電柱小僧の冒険』だけは観てないのかな。クソ映画と言われてる『HAZE』も観てて……まあ実際『悪夢探偵』はクソ映画なんだけど。

 ―― (笑)

さば:クソ映画っていうか、果敢にも三池崇史になろうとして失敗してる感? 三池崇史の、あの職人の「商業映画でも何でも撮るぜ」っていうのをつっくんもやろうとして、ああ、果敢に失敗したんだなあ、っていうのがすごい分かる感じ。

 ―― 挑戦の結果なんですね。レンタル落ちで買った『双生児』だけ持ってるんですけど、『双生児』どうですか?

さば:『双生児』は、私2回ぐらいしか観てないんだよなあ。

 ―― でも2回(笑)。

さば:うーん、モックンがすごく美しいので、それでアリなんだけど。あと浅野さんの役どころは面白いのでいいんだけど、イマイチ薄い(笑)。何だろ、清順の3部作で言うなら『夢二』みたいな感じ。別に嫌いじゃないんだけど、何か薄いんだよねー、っていう。でもあの俳優としてのモックンはすごくいいので。つっくんって全員綺麗に撮れちゃうんで、女の人も男の人も。
……あの、私、塚本晋也を「つっくん」って呼んじゃうの、キモいなって自分でも思うんですけど(笑)。

 ―― (笑)

さば:高校の時に入った地元の団体の、「「天井桟敷」が最高よ」って言ってた人が「つっくん」って呼んでた影響なんですけど……それまでは私、加瀬亮のことも「加瀬くん」って呼んでたのに、その人が加瀬って呼び捨てにするし、(西島秀俊のことを)その人が呼び捨てにするので私も「加瀬」「西島」になっちゃったし、私に多大な影響を及ぼしてる(笑)。

 ―― 確かに、二人称とか三人称って伝染りますよね(笑)。

さ:「つっくん」っていうのはすごいハマッちゃって……(笑)。「ゲスト誰を呼びたい?」って会議をした時に、その人が唐突に「つっくん呼びたいつっくん」って言って、皆「えっ?」「誰?」みたいになって、「えっ、塚本晋也だよ」って(笑)。「つっくん」って呼ぶひと初めて見た上に、未だにそのひと以外に「つっくん」って呼んでる人いないんだよね。

 ―― 『KOTOKO』はテアトル新宿でしたっけ?

さば:そう、すぐそこでやってる。『KOTOKO』はね、塚本晋也は白黒ですごく美しく撮れる人なんだけど、カラーって言っても、今までのカラーと違うカラーというか……。母親がテーマっていうので、違う作品になってて。「これ本当につっくんの作品だっけ?」みたいなトコはあって。でも冒頭が強烈に塚本晋也なんですよ。今年入って観た映画、良い物が多すぎたので、その中では若干劣るんだけど、でもまあ『セイジ』なんか観るぐらいだったら、同じテアトルでやってるものとして、『KOTOKO』観るほうが絶対いいよ、って言いたい*3。もうCoccoがとんでもないので。あの人、演技ができるんだよ。

 ―― あの人、表現者ですよね。

さば:びっくりしちゃった。琴子がCoccoだから、素のまんまだったりすんのかな、って思ったんだけど、でもちゃんと役者をしてて。しかも素人っぽい「役者」じゃなくて、何だろ、リリー・フランキーみたいな。

 ―― ああ、確かに『ぐるりのこと。』のリリー・フランキーは感動的でしたね。

さば:そうそうそう、あんな感じのハマリ具合っていうか。役者じゃないんだけどハマってる感っていうか。

 ―― 「ぐるり」のリリー・フランキーでいうと、完全にハマってたじゃないですか。役がすごく複雑なんですけど……。

さば:うん、リリーさんにしか出来ない。あれは完全にキャスティングの勝利だよね。

 ―― あと、周りの贅沢さ。

さば:そう、八嶋(智人)さんとか(笑)。

 ―― 『ハッシュ』で感動したのは、寺田農がワンシーンにしか出てこない、っていう(笑)。

さば:あと加瀬も一瞬だけ出てるんだよね。イヤな蕎麦屋。そこに加瀬を持ってきたか! という。(TSUTAYAで)100円レンタル始まってるし、「ぐるり」も借りに行かなきゃあ。

 ―― ぜひ副音声のオーディオコメンタリーを*4

さば:そう! コメンタリー、まだ何だかんだで……「ぐるり」いつも借りられちゃってて。安い日に行くとホントに毎回なくて。「ぐるり」と『転々』がないんだよね、いつも。

 ―― 吉高(由里子)効果じゃないですか(笑)?

さば:『転々』は観ないといけないと思いながら、いつも「また借りられてるよ!」って。

 ―― ぼくは吉高、アレが初めてでしたけど、すごく好きでした。あの吉高でハマりました。で、三浦友和が……とても三浦友和で。

さば:三浦友和だったらハズレはないだろう、という感はすごいよね。

 ―― 『茶の味』前後からの三浦友和が良すぎて。

さば:『茶の味』の三浦友和もちょっとすごいよね。本当に典型的な催眠術師(笑)。あれすごいイイ設定だよねえ。石井(克人)監督は『茶の味』撮った後に『ナイスの森』みたいなクソ映画を撮るから……アレ映画だと思わなければ面白いっちゃ面白いんだけど。

ぼくたちの最近の当たり

 ―― さばさんと重なっている最近のドンズバリの「当たり」でいうと、『生きてるものはいないのか』、『ニーチェの馬』、『CUT』な訳ですが。この3本が、劇場で観た今年の最初の三本なんですよ、1月2月あまり行けなくて。まず『生きてるものはいないのか』観たんですけど、ホントに良くて。

さば:そう、『生きてるものはいないのか』。石井聰互(現・石井岳龍)の作品ってさ、今まではまあ、『ユメノ銀河』みたいなちゃんとした劇映画も撮れる人ではあるんだけど、ブッ潰れてる作品も作ることが多かったのに「こんな作品撮っちゃうの!?」っていう驚きがあったのと、脚本がそのまんま戯曲のを持ってきてるから、最初「なんでわざわざ映像化したんだろう?」と思って観てるんだけど、ラストシーンで「こういう構成だったから、ラストの染谷(将太)くんが立ってるシーンの説得力が……!」っていう。

 ―― あのラストシーンの暴力性がすごくて。面白い人達が何組も描かれてから、最後にあんなに圧倒的な映像で、ものすごい集中力で映し出されるモチーフが、圧倒的にどうでもいいやつなんですよね。

さば:そうそうそうそう、一番、なんかしょうもない……(笑)。

 ―― そんなものをああいうふうに切り取れるのは、映画だからこそなんですよね。  

さば:わざわざ脚本そのまんまで来たのは、ここでこのインパクトを起こすためだったんだなあ、と。染谷くんの「何もない」感じの眼が……。すごい眼差しなんだよね。

 ―― あんなに「何でもない」のを演じられることがすごい。

さば:染谷くん天才だと思う。

 ―― 『ヒミズ』を観てないの、ちょっと後悔しました。

さば:私も何だかんだ『ヒミズ』観てなくて。観に行かなきゃなあ、行かなきゃなあ、でもなあ、みたいな(笑)。言ってしまうと、今をときめく人気監督に言うのもアレなんですが、私、園子温が苦手なんですよ。

 ―― ぼく、まだ一本も観てないんですよ。名前を知ったのが『愛のむきだし』とか『冷たい熱帯魚』からなので。すげえヘビーな人、っていう印象だけしか。

さば:あ、ホントに? あの人もともと『自殺サークル』とか『うつしみ』とか、確かに重いテーマで映画を撮ってて……「重いテーマを選んじゃうオレ」感がちょっとあるのと、それでもいいんだけど……観てて面白いんだけどね、映画的な面白さではないんだよね。

 ―― 「園子温の面白さ」なんですかね。「映画そのものの魅力を引き出す」って感じではなくて。

さば:『冷たい熱帯魚』なんてまさにそうなんだけど、「なんでココで長回しするの?」って所で長回し使ったり、変なカットの切り方するのね。「なんでこんな切り方するんだろう? でもまあ話は面白いし」「確かにでんでんの存在感は凄い」というので、面白かったよね、とは思うんだけど、腑に落ちないっていうか「コレ面白いって言っちゃうと何か悔しい!」っていうのがある。佐々木敦さんが『冷たい熱帯魚』に触れてて……あっ、『恋の罪』についてかもしれないけど、「園子温という作家はカットというものに対する執着がないから、カットの切り方がムチャクチャすぎて、全く作家性がない。それが作家性になっている」ということを書いてて、それでちょっと納得した。そういうので苦手なのかな。

 ―― カット割り一つで「巧い」と思う瞬間ってありますもんね。

さば:『ニーチェの馬』なんてまさにそれで。

 ―― 本当に技術という技術を注ぎ込んだ……。

さ:集中力がとんでもないじゃん。テーマ曲ひとつで全部回してるわけで、気が狂いそうになるじゃん、ずっとアレ聴いてて(笑)。一発目の馬のアップからものすごいよね。長い映画でセリフは全然ないし音楽は単調だし、寝る要素満載なのに、全然眠くならないんだよね。

 ―― 昼メシ*5の直後だったので、最初だけ眠気と戦ってたんですが、2日目の描写が始まった時点で「あっ、この繰り返しなのね。繰り返しを全部違う風に撮るのね」って理解できた瞬間に、「どういう風に撮るの?」という好奇心が湧いて、ホントに全部違う撮り方がなされてるのに感動して。

さば:アレすごいよねえ。あと、窓の使い方がすごい特徴的で。一番「うわあ!」って思ったのは、一度家から出た父親と娘がまた家の中に入った所を外から撮ってて、家に入った娘が窓からこっちを観てるのを、亡霊みたいに撮ってるシーンがあって。

 ―― アレをものすげえ長回しで撮るんですよね。

さ:そう、ひったすら撮ってる。亡霊みたいな娘が窓から、「中」からこっちを見てるのに「覗かれてる」感みたいなのがあるすごいショットで。

 ―― 同じ日の描写についてなんですが、水を汲む娘の描写って、娘と同じようにカメラを移動させて表情とか動きを撮ったりしてたのに、あの日に限っては、画面の奥へ進んでいく娘を、部屋の中から撮ってるんですよね。「なんでなんだろう?」と思ったら、ちゃんとそこでそれまでとは違う変化が起きるっていう。2時間強、全部そういう感動がありますよね。

さば:あんなに長いのに全部緊張感っていうか、気が抜けない感じで。ラストの瞬間とか、娘が生きてるのに死んでる、みたいな状態になって終わるじゃん。

 ―― あの二人の演技力、凄いですよね。ほとんど喋んないし、同じ動きしかしないのに。

さば:とんでもないよね(笑)。あと『ニーチェの馬』と『生きてるものはいないのか』って、どっちもさ、「アメリカ」って一瞬だけセリフで出てくるじゃん。「生きてるものは…」では、「アメリカが助けに来てくれるよ」「アメリカの人だってもう死んでるよ」みたいなやり取りがあって、『ニーチェの馬』でも、旅人の集団に「一緒にアメリカに行こう」って言われた娘が「私は行かないわ」って拒絶されるじゃん。どっちも、一瞬希望のように描きながら、でも結局拒絶されるものとしてアメリカを描いてることの相似性に「うわあー!」ってなった。

 ―― まさに現代の感覚ですよね。

さば:ぜんぜん国籍違う映画なのに何コレ! と思って震えた。『ニーチェの馬』はね、今年気合入ってる作品ナンバーワンって感じはする。

 ―― 強いられますよねえ、観察を。

さば:見たくないのに見ちゃう、に近い。ものすごく緊張して見ちゃうよね。

 ―― 物が物として撮られてるのがすごくて……。画面の力が強いですよね。蒸留酒の酒瓶の存在感とか、ジャガイモの白さとか、熱さとか。

さば:水汲んでくる桶とか、全部存在感が凄いんだよね。それらを記号的に配置してるからっていうのもあるんだけど。最後にジャガイモを食べるシーンなんか……意図的に食べる音をでっかくしてるよね、多分。ああいう物の活かし方、っていうか……。確かに「最後の作品」って言っちゃうよ、って感じ。

物凄さには抗えない

さば:今年は、あと、『CUT』がね……。西島秀俊ってすげーな、っていうのがね……。『CUT』観ちゃったから、今年はもう「目標:シネフィルに近付く」(笑)。

 ―― (笑)ぼくはバウスで観たんですが、時間があったので、貼り出されてるインタビュー記事をたくさん見られて、秀二のキャラクターを表現するのに「殉教者」って言葉がすごく遣われてて。それを見てから本編を鑑賞したので、ホントにピッタリの表現だなと思いましたね。

さば:殴られてる所とか、まさにそうだよね。

 ―― コレ賛否両論あるな、と思ったので、色んなレビューを見たんですが、やっぱり嫌いな人は嫌いな映画で。

さば:「そういう極論ばっかり言ってるから映画は廃れるんだよ」みたいなね。

 ―― そういう意見は判るんですけど、ストーリーを批判するのは的を射てないな、と。あれはそういう映画じゃないじゃないですか。「そういう映画じゃない」って言うと表現として弱いんですけど。

さば:でも、そこじゃないんだよ、って言いたいよね。

 ―― 「あんなふうに借金返せるわけ無いじゃん!」っていう批評は違う。ズレてる。

さば:「最後に何でまたあんなことしちゃうの? 訳が分からない」みたいな感想もあって、だからそこがね! みたいな。映画を作ることの罪というか、背負ってる業なんだよ! っていう。

 ―― (あの梗概は)一種の喩えでしかなくって……あれはあて書きみたいなものじゃないですか、西島がいるから撮ったっていう。西島だから「強制できる」っていうか、「犠牲にできる」からああいう映画・ああいう展開になったってだけで、あの荒唐無稽さを批判するのは、楽しみ方が違うって思ってしまう。

さば:結構Yahoo!レビューとかだと、点数低い人はそういう人が多くて。「ストーリーがわけ分かんない」とか、あとは「全くもって感情移入できない」というのが多くて。

 ―― だってコミットする映画じゃないですよね。ビビらされる映画っていうか、迫られる映画ですよね。

さば:そう、アレって違うじゃない。「この人マジキチだよ」っていう。

 ―― 「この人マジキチ」って危機感を煽られるんですけど、でもちょっと分かる、って思っちゃうと、心の動揺がどんどん感動に変わってく。

さば:「殴られても痛みを感じないんです」とか言っちゃう辺り、殉教者ってそのまんまだよねえ。「金の問題じゃないんです」って言うトコとかねえ。

 ―― あのシーンの西島がホントにかっこ良くて。

さば:すごいよねえ、あそこ! 結構、西島ってテレビの時と映画の時とで、演技の質をわざと変えてるってインタビューで見たし実際そうだなって思うんだけど、テレビに出てる時ってわざと演技してる演技みたいなことをするひとだと思ってて。

 ―― 「普通の」俳優っぽいですよね。

さば:そうそう。だからテレビだと「西島演技ヘタ」とか言われたりするんだけど、西島って、実はものすごい演技上手い人だから、『CUT』なんかは、まああて書きってこともあるんだけど、あのシーンの叫ぶでもないし吐き捨てるでもないし、明確に突きつけるように言う所がもう、とんでもなくて!

 ―― ああいう風に狂ってるキャラクターの横に、何もしない常盤貴子笹野高史がいるじゃないですか。あれがすごい。

さば:寄り添うようで寄り添わないようで、みたいな、微妙な距離感で。抱きしめようとしてそのまま抱きしめないで終わる、っていう使い方がすごい巧い。

 ―― 指先だけアップで撮るんですよね。『昼顔』の終盤にこんなカットあったなあ、アクションを起こせずにためらう指先、っていう感動が一瞬でダブりまして。「これえげつないなあ」「こんな感情の描き方アリか」と。

さば:そっか、『昼顔』にもそんなシーンがあったんだっけ……。観返そう!

 ―― あのラストの100本も感動的でしたねえ。

さば:ね! 結構早く切り替わるじゃん? 最後のトップテンとかは映像と共に出すから伝わる感じはあるけど、正直最初は、観客に全部読ませる気無いだろぐらいの速さで切り替わるじゃん。でも何かすごい見ちゃうっていうか。

 ―― 本筋とは関係ないというか、分からなくてもいいものなんですけど、でも分かる奴には分かるだろ?っていう惹きつけ方がいいんですよね。

さば:それで読み取れると「ああ!」って(笑)。

 ―― 実際に観たことあるのも何本かあったりして。「アレのことか!」と。

さば:ついついパンフレット買っちゃうんですけど、あの100本載ってたから(笑)。秀二は最初っからちょっとおかしい人じゃん。若干「外れちゃった」カンジがするのに、上映会やるときはものすごい普通の人なんだよね。それがこう、地続きのまま行くのが恐いところでもあるんだけど。確かに人間ってそうかもね、って。すごい映画だと思った。ああいう映画の主人公って、全体的に狂ってるっていう撮り方が多いのに、ちゃんと正常ですよ、ものすごく普通の人ですよ、みたいなシーンがちょいちょい入ってるのが。顔に怪我して「どうしたの?」って訊かれて「転んだだけですよ、ハハ」みたいにその辺ごまかすだけの理性はちゃんとあるんだな、って。

 ―― あのシーンで「オレもう何年も映画撮ってないよ」って仲間に言われて、「秀二はどうなの」って訊かれて、「やってます、やるしかないですよ」みたいなこと言うんですよね。「必死でやるだけです」みたいなことを。その言葉の後ろにあんなものが隠れてる。

さば:その恐ろしさっていうか……。狂ってるんだけど狂ってないっていうか、でも狂ってるんだよね。

 ―― よくよく考えてみると、(狂ってる/狂ってないという)その両方とも原因は映画なんですよね。

さば:そうそうそうそう。

 ―― 朗らかに、新藤兼人シネスコがどうのこうのって言うのも。

さば:そうそう、「議論したいと思います」とかってね。

 ―― その後ろには、トイレで地団駄踏んで殴られるのを待ってる秀二がいて。

さば:それがどっちも映画によって作られてるのがすごいよね。

 ―― 最初は「西島がスゴイ」「西島がとても力を入れた」ってのをインタビューとかで読んでて、最初の方はホントに西島の演技のスリルみたいなものに眼が囚われてたんですけど、途中で気づくんですよね。「あっ、それだけの映画じゃねえわ」って。自分の映画観とかを、何て言うんでしょうね、決して押し付けではないんですけど、「お前そういうふうに映画観てていいの?」ってことを言われてるっていうか。

さば:うんうん。すごい突きつけられてる感があるよね。しかもちょっとでも「日本映画の世界がヤバイな」とか思ってるところがあると、真正面から言ってる「クズ映画くたばれ!」みたいな意見に、分かる分かる、ってなっちゃうところもあって、ちょっとまあ爽快じゃないけど、よく言ってくれた、ってところもあったりして。でもそれだけじゃ終わらない。

 ―― 西島もインタビューで「僕は低予算映画ばっかり出るわけじゃないし、いわゆる秀二が言うシネコンでかかってるクソクズ映画にも出ているわけだから、純粋に僕の怒りをぶつけたわけじゃなくて、自分もまた言われていると思いながら演技にあたっていた」っていうことを言っていて。そこを経ないと、ああいう根っから狂った演技はできないのかなあ。

さば:秀二の主張に全面同意とかしちゃってると、たぶん全然つまんない映画だったと思うんだよね。ムチャクチャだし極論だし、全面同意なんかはできないんだけど。――っていう視点があって、西島はなんでもやる人だから、だからこそ俯瞰の視点であの役を捉えていて……。

 ―― 絶対に俯瞰して、色んな問題の全体を捉えないとあんなことはできないんだけど、でも完全に没入はしてるんですよね、役に。あのバランスもすごい。上から見ながら第一人称にもなってる。

さば:(没入)してるね。アレを観ちゃったあとに『セイジ』を観に行ってしまったので、もともと『セイジ』は期待してなかったんですが、『CUT』のあとに観ちゃうと残念だなあ、っていうのがあって。今年外した映画が『セイジ』だけなんですよ、今んところとりあえず。
それ以外は……あっそうだ、さんちゃん*6、『サウダーヂ』は観た?

 ―― まだですね。

さば:あれは映画史に残る傑作なので観た方がいいですよ。っていうか観て!

 ―― (笑)ぼくのタイムラインだと、結構賛否が割れてるんです。絶賛してる人のほうが多いですけどね。

さば:確かに恣意的に描いてるところはあると思うんだけど、私が地方都市の出身者っていうのがあるから、まさにそれがテーマで……テーマにハマッちゃってるところがあるとは思うんですが、何だろうなあ、下手なインディーズ映画だと思って観るとやられる。実は撮り方も工夫されてて、最初のカットからすごいんですよ、どうやって撮ってるのって最初分かんなかったぐらい。どういう構図になってるのか分かんなかったんだけど、それが何回か出てきて、こうなってるんだ!っていうのが判ったりして。すごい長いのよ、3時間ぐらいある映画で。 でも全然飽きないし、っていうかムチャクチャ面白いの、全編にわたって。主人公がいないっちゃいない作品で、群像劇みたいな作品なんだけど、ストーリーもまあ勿論面白いんだけど、撮り方がスゴイ面白いんですよアレ。素人臭くないっていうか、ホントに分かって撮ってんだなあって感じで。あー、観てるんだったらすごい言いたいシーンがあるんだけど……(笑)、都市の終わってしまってる感をすごい残酷に描いてるショットがあって、それがもうスゴイんですよ!

 ―― 『サウダーヂ』も、結構いろんなところで未だにかかってますよね*7

さば:今、あそこでまだやってるかな、オーディトリウムで。私ももっかい観に行かなきゃなあと思ってる。

 ―― オーディトリウムも本当にありがたい劇場ですよね。シネマヴェーラユーロスペースのプログラムに「うーん、ちょっと足が進まないかなあ」とか思ってオーディトリウム見ると「ああっ、やってる!」みたいな。

さば:そうそう(笑)。オーディトリウム、ゴダール特集やるね。ゴダール、私もまだ観られてないのが沢山あるので。

 ―― (早稲田松竹の)「選ばれた瞬間」と「ソシアリスム」の二本立ては行きました。「ソシアリスム」のすごさたるや……。

さば:そう、「ソシアリスム」ね。すっごい面白いよね。

 ―― 全然ワケ分かんないんですけど、確か菊地成孔が、「分かんなくてもいいや、ってところについに辿り着きましたね」みたいなことを書いてて。

さば:そう(笑)。本編の後に、菊地成孔佐々木敦さんのトークショーがあるイベントに行って、確か短いじゃん、1時間半ぐらいの映画なんだけど、トークが2時間あったからね(笑)。
「思ったより面白かったでしょ?」「寝ちゃった人います?」って手ェ挙げさせたら「あ、いないよね。やっぱ面白かったでしょ、皆」みたいなことを(笑)。でも実際面白いんだよね。

 ―― しょっぱなの海がすごいですよね。あれだけでもう。

さば:船上から撮ってるやつね。コントラストの出方がすごい。たぶん青を強調してるよね、効果で。

テオ・アンゲロプロス

 ―― タルコフスキー然り、アンゲロプロス然りそうなんですけど、何で「水」とか「色」とかをこんな風に切り取れるんだろうっていう感動は、映画の感動の最たるものとしてあって。

さば:新文芸坐の追悼上映、一回だけ行けて、『永遠と一日』観たんですよ。私、『エレニの旅』しか観てなかったんですけど、『永遠と一日』って海の使い方と色と、何かものすごい……。

 ―― 『永遠と一日』は早稲田松竹で、(追悼上映の)2週目にやりますよね。(『霧の中の風景』を加えた)あの2本はまだ観てないので、絶対行きます。確か09年か10年にユーロでアンゲロプロス特集をやったんですが、その時に初めて『旅芸人の記録』と『ユリシーズの瞳』を続けざまに観るということをしまして。

さば:おお、何か胸焼けするような(笑)。

 ―― エコノミー症候群上等、みたいな観方をしたんですけど、それだけでズバッとやられて。早稲田松竹で毎年かかるじゃないですか。次に早稲田松竹でかかったのが『エレニの旅』と『蜂の旅人』で。その四本を観たところに、この前の事故が……。「もうこうなったら全部観てやる」と。

さば:うちのスゴイ近所の、シネマブルースタジオっていうところがあって、もう始まってるんだけど、8月まで新文芸坐でかかってたアレ全部やるよ。

 ―― 新文芸坐で、『アレクサンダー大王』観らんなかったんですよ。

さば:私も『アレクサンダー大王』すごい観に行きたかった! 予告編しか観たことないんだけど、アレとんでもないよねえ。絶対観に行きたかったんだけど、日程がどうしても合わなくてねえ。

 ―― 『こうのとり、たちずさんで』は何とか観に行きました。『蜂の旅人』はちょっと分かんなかったってのを除いて、今のところ全部好きですけど、『エレニの旅』は、ホンットに……ちょっとこの話、していいですか?

さば:い、いいですよ(笑)。

 ―― (笑)ブログにもちょっと書きましたけど、ラストシーンが……。

さば:ああ、ああ、あの……。

 ―― 今まで観てきた映画の中で一番印象に残ってるラストシーンは、って言われたら、「エレニ」なんですよ。あれも長い映画じゃないですか。

さば:長い長い(笑)。

 ―― で、いいことなんて一つも起きなくて、たまに増したりたまに減ったりっていう辛さが続いて、その中で目を奪うカットがいくつもあるんですけど、その美しさにも悲しさがあって。羊のカットとか、洪水のシーンとか。美しいけどこんなことってあるかよ、っていうシーンがあれだけ続いて、最後どうなるのかと思ったら結局あのラストシーンで。席があんまりなくて、早稲田松竹の割と前の方の席で観たんですが、完全に圧倒されて。

さば:早稲田松竹だとスクリーンがでかいしねえ。

 ―― スクリーンいっぱいにあの悲劇が。背もたれにもたれかかって、ものすごい放心した表情で観て。

さば:3時間観続けて最後にアレを持ってくる……。「(観ただけで)ちょっと痩せたよね」っていう。

 ―― 胸を揺さぶられるどころじゃなくて。例えが福本伸行の『銀と金』で恐縮なんですけど、心臓を絞られた、みたいな。「俺はもうダメだ……」ってところまで脱力させられる。

さば:ああー……。でもすごい的確かもしんない、「心臓を絞られる」。

 ―― 胸が苦しくなるとかいう表現の、いかに生やさしいことか。もう救いようがないというか。

さば:アレ観ちゃうと、次になんかしようと思ってたのが全部台無しに……。私、そうやって帰った気がするんだよな、「買い物して帰ろ」とか思ってたくせに、終わったあと。

 ―― エネルギーを残させてくれない映画ってありますよね。

さ:私、そういうふうになったのって「エレニ」と、あとハネケの『ベニーズ・ビデオ』って作品で。ハネケを二本立てで観ようと思ったのね。『ベニーズ・ビデオ』は初めてだったんだけど、もう一本は『71フラグメンツ』っていう銃乱射しちゃった学生の話で、そっちはビデオで観てて知ってたんだけど、劇場で観られるからついでに『71フラグメンツ』も観ていこう、と思ってたんですが、『ベニーズ・ビデオ』がしんどすぎて「このあともう一個ハネケとか無理……!」と思って(笑)。わざわざ有楽町に行ったのに……っていう。

キノハウスさんにはお世話になってます

さば:アンゲロプロスもそうだし、ミレールもこないだ死んじゃったよねえ、シャブロルだって。ロメールだってもう亡くなってから3年? ゴダールオリヴェイラには死んでもらっちゃ困る。

 ―― オリヴェイラも世界最高齢の監督ですもんねえ。

さば:オリヴェイラの元気っぷりには驚かされるよね(笑)。『ブロンド少女は過激に美しく』は、あんなモノを100歳以上の人が撮ってるっていうのが驚きだよね。

 ―― 「ブロンド少女」の話もしたかったんですよ。あんなに気持ちのいい幻滅ってあります(笑)?

さば:すっごいよね。最初すごく幸せーな感じに描いといて、最後にあんなにブツッと切っちゃう感じ。

 ―― たぶん同じ事を才能ない人がやったらクソになるだろう、という。

さば:そう、クソ映画になると思うんだけど、アレは……(笑)。あんなにメチャクチャなのに面白い上、綺麗に成立してるんだよね。ラストなんか、走ってく汽車が描かれて、何故か一瞬ものすごいズームアップして終わるんだよね。

 ―― 確かファーストカットが、列車の中のカットじゃないですか。で、ちょっとした縁で「いや、こんな話がありましてね」って語りが始まって展開していく話じゃないですか。なんでその視点に戻らないの? っていう。

さば:しかもあのアップで。画質の悪いアップなんだよね。あれわざと画質落としてるよね、たぶん。綺麗に取れるショットじゃん。わざとやってるの? と思うと、とんでもないオッサン、っていうかおじいちゃんだなあと思う。

 ―― 映画論の授業の話に戻りますが、(授業の一環で)『神曲』を観せてもらって……。あれも「映画でこんなことやっていいんだ」っていう映画ですよね。

さば:メタなのかちゃんと映画なのか分かんなくなっちゃってる、ごっちゃになっちゃってる構造で、しかもそれが曖昧なまま終わるっていう。

 ―― 「映画でしたよ」って終わり方なんですよね(笑)。「演技内演技」じゃないですか。カメラの中で役者が演技をしてるんだけど、演じているものが既存の神話だったりする。既に演じられたものを演じてるから、映ってるものの意味が分からなくなってくるんですよね。あと、ぼくはオリヴェイラのフィックスの映像がすごく好きなんです。ワケ分かんない構図で撮ったりするじゃないですか。

さば:するね。ワケ分かんない構図なんだけど、ものすごくハマってるんだよね。

 ―― ちなみに、「ブロンド少女」を観に行った時に、映研の3コ下の後輩と会ったんですよね。オーディトリウムで、コロンブスについての映画が一緒にかかってて。休憩中にボーっとしてたら声かけられて、誰かと思ったら後輩で。彼はちょうど帰るところで「いずれまた……」って言って去っていったんですけど、この前会った時にSくん(ぼくたち2人とも面識のある後輩)にその話をしたら、「まあ、集まりますよね」っていうことを言われました。「渋谷だと限定されますよね」って。

さば:そうだね、作品も作品だし(笑)。「ブロンド少女」の時、けっこう人が入ってて安心した覚えがある。

 ―― アレでオーディトリウム知った時「いい映画館だなあ」と思いましたけど……。

さば:私、確か「ソシアリスム」観に行ったんだけど、あれがオープンして2週目とかだったんだよね。オープン記念の上映で。たぶんその時は存在がそんなに知られてなくって、菊地成孔のトークがあるにも関わらず、しかもゴダールの「ソシアリスム」にも関わらず、なんと半分しか埋まってなくて(笑)。結構ガラガラだなあ、ってちょっと悲しい事態に。たぶん2本目に観たのがオリヴェイラで、逆に今度は埋まってて。

 ―― あのビル(キノハウス)は貴重ですよねえ……。映画美学校も入って。

さば:ホントに、映画美学校が買い取ってくれて良かった……(笑)! もう有効活用されてる!っていう。

 ―― あの空間だけ映画濃度が濃すぎるというか。

さば:Bunkamuraの方から行くと、ポスターがバーッてあるじゃん。看板が見えてきた時の、何ていうか、高まり?

 ―― 来たぜ、って気持ちになるんですよね。

さば:ラブホ街を抜けてったところに、あんなビルがあっていいのか、という。

 ―― ごみごみした道玄坂を抜けて、路地に折れて、時にはO-WESTで人だかりができてて。ラブホを右に左に見つつ、俺はキノハウスに来たぜ! っていう。

さば:バンギャとかが溜まっててね(笑)。ちょっと俺ランク違うぜ、みたいな(笑)。

 ―― フライヤーたくさん持って帰るぜ、みたいな(笑)。

さば:なるなる。心の優位感みたいなね(笑)。

 ―― 行きつけの隠れ家的お店を持ってる大人ってこういう気持ちなんだろうな、っていう。

さば:俺は知ってるからな、みたいな。分かる分かる(笑)。あそこ本当にすばらしいよね。しかも嵯峨谷でソバ食べて帰れるっていうね。嵯峨谷、入って良かった!

 ―― これからはキノハウス行くなら嵯峨谷、イメフォ行くならウーピーに入って、シアターN行っちゃった時には景気づけにトンテキでも、みたいな。

さば:そうね、シアターNだったらトンテキのほうが近いね(笑)。

 ―― ツイートもしましたが、完全にウーピー・トンテキ・嵯峨谷で、渋谷に「食のバミューダ・トライアングル」が。

さば:あれすげえ表現だな、と思ってた(笑)。

俳優

さば:ホント、最近渋谷の充実っぷりが嬉しい。

 ―― 最近は、映画観たらサラッとタワレコとかUNION行って帰るか、っていうのが多かったので。

さば:UNIONとかの方の劇場ってことでいうと、シネマライズとかだよね。シネマライズってあんまり行かないんだよね。「シネフィルとか映画好きは皆ライズ好きだよね」って空気があるけどさ、そうでもないよねえ?

 ―― ぼくも一回しか行ってないですね。むしろ、アンテナが広い人で映画「も」観ますよっていう人が行きそうな……。『ラストデイズ』とかそんな感じでしたよね。実際観に行った『恋愛睡眠のすすめ』もそういう雰囲気の映画だったと思います。あれはすごく楽しめたんですけど。「シャルロット・ゲンズブール貧乳可愛い」ですとか。

さば:しかもアレ、最終的には全部、男の妄想っていう。ホントに「童貞乙」みたいなねえ(笑)。

 ―― フフフ。だからこそ、シャルロット・ゲンズブールの変化球的可愛さが際立つっていうか。

さば:全然可愛くないのに可愛いっていうかね。

 ―― リュディヴィーヌ・サニエとかもそうだと思うんですけど、めちゃくちゃ可愛いってわけじゃないけど、この子すげえ可愛く見えるんだよな、っていう人がいて。いわゆるミューズじゃあないんだけど超キレイなんだよな、この子、っていう。それ、日本人で言うとまさに市川実日子なんですけど。

さば:分かる……!

 ―― 市川実日子って、美人と並ぶと美人じゃないじゃないですか、ただもうメチャクチャ可愛いと思うんですよ。もうさすがに『レンタネコ』は観に行きますよ。

さば:アレもう始まってる?

 ―― えーと、確か5月からだったと。『トイレット』はすごく好きなので、荻上直子への信頼はずっと持ってるんですよ。『めがね』の外しっぷりは無視して観に行きますよ。

さば:『トイレット』も観なきゃと思って観てないんだよなあ。すごくいいって評判なんだよねえ。

 ―― 早稲田松竹で『川の底からこんにちは』との二本立てで観ました。

さば:またすごい二本立てで(笑)。

 ―― もたいまさこ満島ひかりという、ものすごい女優だけどぜんぜん違う、静と動の違いが(笑)。

さば:こないだ「ぐるり」と『転々』と『トイレット』と、あと何かもう一本も借りられてて、しかも全部一本しか置いてないっていう悲劇があってね。もっとあっていいと思うんだけど。「ぐるり」は日本アカデミーとかもとってるしねえ。

 ―― ホントにお話としてもすごく楽しめるし、撮り方も丁寧だし、考証もちゃんとしてるし。ガシッとした映画ですよね。

さば:本当に、そういう映画が増えていけばいいな、っていう映画だよねえ。

 ―― お話でも演技でも、映画の作りでも感動できる。あの寺島進が大好きなんですよ。

さば:あのしょうもない、俗っぽいお兄ちゃんね(笑)。根はいいんだよね、「妹好きだよ」って感じで。

 ―― 木村多江が部屋のベランダでふらふらしてるのを、不安そうに見る寺島進が! 声をかけたいんだけど、おっかなくて声をかけられない、っていうのが好きで。

さば:あと、中華料理屋での俗っぽさがすごい好き(笑)。ホントあれたまんないよね。

 ―― その傍らで、ほっとかれてぐずってる子供にかまってあげるリリー・フランキーと、それを見て微笑む木村多江。あのシーンすごくいいですよね。

さば:あれもいいよねえ。ちょっとやっぱ「ぐるり」借りて帰ろう。

 ―― ぼくもレンタルで、一回まともに観直して「いい映画だなあ」と思って、直後に副音声のコメンタリー聴きながらまた観たんですけど、あの尺でコメンタリーをずっと聴けたってのが今思うと……。

さば:そうだよね、結構長いもんね。

 ―― 前も話しましたけど、「新井(浩文)が嫌われた」っていう話が印象的で。

さば:ああ(笑)。

 ―― まあ確かにあの新井浩文の演技を見て好感を持てるって猛者は……。

さば:あれは、嫌わない人はいない……(笑)。あれでしょ?

 ―― (二人揃って)「死〜ね!」

さば:あれはもう、新井くん最高ですよ。

 ―― 感動が一回引いた今となっては「素晴らしい演技だった」って言えますけど、ビリビリしましたもんね、劇場で観て。

さば:「うわあ……」って(笑)。犯人役のセレクトもすごいんだよね。まあでも、あの中で言うと新井くんが光ってるよね。

 ―― 加瀬とか……あと片岡(礼子)もすごいですけどね。あの悲痛さは出せないですよね。

さば:何言ってるか分かんないぐらい(笑)。『ハッシュ!』からああなるか、と。

 ―― あんなに気風が良かったのに(笑)。『ハッシュ!』って、レンタルされて長いじゃないですか。ショップでよく取り上げられる名作として扱われてから長いっていうか。あんまり映画知らない人が、どれだけ『ハッシュ!』と「ぐるり」を結びつけて見てるのか、気になります。

さば:そうだねえ、『ハッシュ!』観て面白かったら絶対「ぐるり」観てほしいし、「ぐるり」観てから『ハッシュ!』でもいいと思うし。とっつきやすさで言ったら「ぐるり」なのかな、って感じはある。でもイケメンが観たければ『ハッシュ!』でもいいかな、と思う。

 ―― 繊細な田辺誠一が(笑)。後半で、めんどくさい女に絡まれて、放って帰ってくるじゃないですか。パートナーに部屋で諭されて、「でもオレダメなんだよ、ああいうの」って言う田辺誠一がすごく良くて。あれ感動的ですよね。『ハッシュ!』は一回しか観たことないんですよね。観返したい。

さば:最後に観たのが大学の時だから、結構記憶が薄れてるんだよね。高校の時に、友達と一緒に映画館に観に行くってなったんだけど、その映画館も今じゃ無くなってしまって……。水戸にある唯一の良心的な映画館だったんですが、シネコンに潰されまして……。
  

ビデオグラムとテアトル

 ―― さばさん、一時期「レンタルで映画を観られなくなった」って仰ってたじゃないですか。ぼくも近年まであの症状を患ってまして。やっぱり映画館で観るとこっちのテンションが違うんですよね。それを覚えてしまってしばらく映画を借りられなかったんですけど、最近必要に迫られてというか、時間的余裕もあんまりないし劇場でかかってるわけでもない作品だったら、最近は観られるようにまたなってきたんです。前々から思ってたことがそれによって浮かび上がってきたんですけど、レンタルで観るからクる、っていう作品も、あるにはあるんですよね。映画を今ほど真面目に見てなかった時期の話なんですけど……この前、ブックオフとレンタルショップの台頭は、一億総オタク化に拍車をかけたみたいな話をしたじゃないですか。ぼくらが高校ぐらいの頃って、『CUBE』とか『es』とか、サイコものの映画が……。

さば:あ〜、流行ったねえ。

 ―― 中学ぐらいに『ケイゾク』があったりとか、『MONSTER』とか『多重人格探偵サイコ』とか、「バトロワ」があったりして、イカレてるというか、サイコとかバイオレンスが絡んだものの人気が急騰してたってのもあるんですけど、『CUBE』とか『es』とかは、ビデオをレンタルするっていうちょっと不健全なビジネスのエキスが匂う作品って感じなんですよね。

さば:確かにそうかな。

 ―― ぼくの家、ちょうどその頃CSに入ったので、ムービープラスとかでかかったりして。当時CSっていうのもメジャーなメディアじゃなかったので、正規の感じじゃないって印象があったんです。その上でそういう映画を観る喜びみたいなものが、当時あったんですね。

さば:ちょっとこう、アングラっぽいっていうか?

 ―― そうです、そういうような自意識に酔える観方というか。そうやって観た、ダーレン・アロノフスキーの『π』とか、『ドニー・ダーコ』とか……。あれはむしろレンタルで観て良かったなあって思うんですよね。

さば:あの感じは確かに典型的な、テレビだけ点けて部屋暗くして、ちょっと(画面を)近くして観ちゃうみたいな感じはあるよね。

 ―― ぼくらが意識してた訳はないんですけど、宮崎事件以降、ビデオ的なものに対する……、うーん、「ヤバさ」というか……。あれの延長にある感じを意識してる気がするんですよね。

さば:うんうん。確かに確かに。ああいう傾向の作品は、レンタルとかビデオで観たいっていう感じは判る。そっちのほうが似合ってしまう。

 ―― (アロノフスキーの)『ブラック・スワン』は去年劇場で観たんですけど、Yさん(映研の先輩・さばさんと同学年)が『レクイエム・フォー・ドリーム』をすごく褒めてて。「アレ観たらドラッグやろうとは思わないよ」って。やっと最近レンタルで観られたんですけど、あれもレンタルで観られてよかったなって感じでしたね。あのへんのアメリカ映画って特にそうだと思うんですけど、ダンスビート的っていうか、切れ味がいい映像とかスピード感のある編集とか、ズバッズバッとカットが切られたりして、それで話にテンポが出てるような映画が多いと思うんですけど、そういう作品の鑑賞って、やっぱり家でちょっとトランスとかかけてお酒飲んじゃうのに近いんですよね。

さば:確かに劇場って感じじゃないんだよね。それって、映画館って結局他の人もいるから……、他者との意識の共有があると思うんだけど、ああいう映画ってたぶん、そういうのをシャットダウンして入り込む感じなのかなって、今ちょっと思った。

 ―― ああ……そうですね。一人で観たい映画なのかもしれない。

さば:だからむしろTVのちっちゃい画面で、かつ、すごくプライベートな空間が合うのかも。

 ―― 観返すとなるとレンタルでもいいかな、っていう考えが出てくるのはそういうところがあるのかもしれないですね。映画的体験をしたいというより、自分なりに省察したいから、家で一人で観察して観るっていう。

黒沢清への屈服

さば:私も何度目かの「ビデオで観られない期」があったんですが、西島病が発病したのをキッカケに観られるようにまたなったので。

 ―― (劇場でしか映画観らんないとか)「そんなこと言ってられるか!」と。「細けえことはいいんだよ!」みたいな。

さば:「とりあえず西島見たいからさ……」みたいな(笑)。普通西島が見たくなったら、『好きだ、』と、黒沢清の『LOFT』を借りてくれば治まるんですが、今回は治まらなくって(笑)。

 ―― 『CUT』の熱量のせいですね(笑)。

さば:『CUT』で高ぶりすぎて……『CUT』2回行っちゃったし。『セイジ』は、西島出てなかったら絶対観てないと思うんだけど行っちゃったし。『LOFT』って黒沢清の作品ではそんなに評価高くないと思うんだけど、私『LOFT』大好きで、たぶん30回ぐらい観てんだよね。

 ―― まだ黒沢清、『CURE』と『カリスマ』と『叫』しか観てなくてですね。前もお話ししたかもしれないんですけど、監督によって印象が変わると分かっていながらにして、嫌いな俳優がメインどころにいるとちょっと避けちゃうっていう……。

さば:あーあー、アレでしょ、香川(照之)さんとか。

 ―― 香川照之は生理的にダメで、最近少しずつそれが薄れてきたので、いいかげん『トウキョウソナタ』を観なきゃなって思うんですけど。

さば:『トウキョウソナタ』は大傑作なので!

 ―― 小西真奈美が嫌いで観なかった『叫』を観たら、「えっ、こんなに素晴らしいの?」って思っちゃったので。

さば:『叫』も藤崎先生が超絶賛してた気がする。とんでもないよね、あれ。

 ―― 途中で笑っちゃうCGもありましたけど。

さば:それはまあお約束っていうか(笑)。

 ―― でも、全然何もない所から凶器が向かってきたみたいな、ああいう感じは黒沢清だなあって思いますね。

さば:葉月里緒菜のどうしようもないイヤ〜な感じ(笑)。

 ―― 役所広司が最初の事件現場に来た時に、平行移動で役所広司の動きを追うカットがあるんですけど、なんだこの気持ち悪さはっていうか、あの、

(二人で)ヌル〜ッとした。

 ―― あの横移動で、すげー映画だっていうか、これから期待裏切られないわ、って思いました。今のところその3本だと、やっぱり『CURE』ですね。

さば:確かに『トウキョウソナタ』か『CURE』かって感じはある。私も『トウキョウソナタ』観るまでは、『CURE』が一番えぐられる作品だった。あのエンドロールの気持ち悪さとか。あの気持ち悪さと、ステーキ食ってる役所広司の気持ち悪さがオーバーラップしていく感じがたまんないんですが……『LOFT』はねえ……非常に面白いので。二つの意味で面白いので。心から「すっごい面白い」「感動した」って、インタレスティングの方の面白さと、笑っちゃう面白さもあるので。『ドッペルゲンガー』は「笑っちゃう」が強い面白さなんだけど、『LOFT』は両立しててすンごいんですよ。また西島が超いいの。
『CUT』が今、私が観た中では西島・オブ・西島なんですが、その前までは『LOFT』が西島・オブ・西島だった。『LOFT』の西島って本当に気持ち悪い嫌なヤツなんだけど、ああいう風に撮れるのもすごいし、西島が異常に平坦な演技をしていて、それがすごい気持ち悪いんですけど、あんな西島が見れるのは後にも先にもあれだけって感じもあって。西島主演で黒沢清に撮ってもらいたいんだよねえ……。

 ―― すごくハマりそうですよね。っていうか、絶対西島が黒沢清好きですもんね。

さば:絶対好きだよ、多分全部観てると思う。西島はねえ、私の知り合いがハネケ映画祭をユーロでやった時に行ったら、「斜め前の席に西島がいるよ!」ってメール送ってきたぐらいだから……。「ハネケ映画祭に行っちゃうんだ西島!」「しかもユーロに!」って。

 ―― 狭いッスからね、ユーロ! ユーロ1なんて試写室みたいな……。

さば:スクリーンの小ささが……ヴェーラあんなにでかいのに(笑)!

 ―― あそこで『生きてるものはいないのか』も、ブリュノ・デュモンの『フランドル』も観たんですが、何て言うんでしょう、凝集力がある映画をあそこで観るとすげえクるんですよね。

さば:バウスのちっちゃいところで『CUT』観た時の感動にも通じるかも。私もあそこで観られて良かった。1回目に観たときは六本木シネマートで、ちょっと広くて。シネマート、きれいなんだよね。バウスちょっと古いからさ、馴染みの感じがあるっていうか。その二箇所で二回観られたから、『CUT』の印象にも影響が……。今年ちょっと劇場に行ってる回数が、意識して行っているのはあるんですけど、例年よりも増えてて、一応3月までに30本は観たので。そのうち10本ぐらいはレンタルなんだけど、結構まあ頑張ってる。このまんま継続して、年間100本を今年は達成したいなあ。

 ―― 今年はまだ名画座の二本立てに行けてないので……。最近、早稲田松竹が全力を出してきたといいますか、五月のアンゲロプロス2週と、引き続き、えーと、フェリーニですか。

さば:フェリーニやるんだよね!

 ―― フェリーニの次がラース・フォン・トリアー特集なんですよね。

さば:ああ、フォン・トリアーなのか(笑)。

 ―― 『メランコリア』観てないんですけど、もう一本が『ダンサー・イン・ザ・ダーク』なんですよ。

さば:私も『メランコリア』観てない。フォン・トリアー、何だかんだで苦手だったりするんだよねえ。どうせなら『ドッグヴィル』とかやってくれればいいのに(笑)。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、結構、もういいかなあって。

 ―― もう観たよ、何回も締め付けられたよ、と。CSでも無闇にかかるし。

さば:地上波でも2,3回かかってるよね。

 ―― あれ吹き替えで観てどうすんだって思いますけどね。

さば:まあね。

 ―― M(ぼくの友人。さばさんとはライブ会場で何度か会っている)がビョーク好きで……彼女ビョークとかレディへ大好きなんですよ。「ビョークの『Unravel』は名曲で、トム・ヨークが世界一好きな曲らしいよ」とか、「ビョークに興味があるなら、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は観るといいよ」って言われて。高校の卒業式の前日にレンタル観る、で、ものすごい気持ちになって寝て、卒業式に臨む、っていう。

さば:(笑)すごい卒業式だね、違う意味で泣きたいよね。

 ―― 何も興奮とか喜びがないまま寝て。

さば:あれさあ、「泣ける名作」みたいな括りで語られるじゃん?

 ―― どっちかって言うと、「おいやめろ」的な。「(ガタッ)よせ」みたいな。

さば:「感動する一本」とかで、ananとかが特集組んだりとかさあ。

 ―― アタマおかしいですよね。

さば:お前さ、観てないだろ! って(笑)。でも数年に渡って「感動作」のラインナップに入ってる違和感。

 ―― いい映画だと思いますし、ビョークのいい面がたくさん出てる映画だと思いますけど……。

さば:人に勧められる映画じゃないよね。

 ―― こんなカトリーヌ・ドヌーブ観たくない! とか。

さば:そうなんだよね、そうなんだよね(笑)!! カトリーヌ・ドヌーブがさあ! あの大女優をさあ! まあ確かにね、近年のカトリーヌ・ドヌーブは若干目も当てられない感じもあるんですが。

 ―― あの美しい頬骨の残像を抱く私達としては、「あのクズ女!」「クズ女の役を!」と。

さば:基本的にさ、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に出てくるキャラって、クズが多いじゃん(笑)。

 ―― 社会的にやりきれてない人たちですよね。……トム・ヨークってある意味、その極致ですよね。こいつ音楽やってなかったらどうなってしまったの、っていうか。

さば:確かに(笑)。変なダンス踊ってるだけのおじさんじゃないんだぞ、って思いたい。

 ―― 何かこう言うと、くるりの岸田にピッタリ当てはまる。

さば:(爆笑)ああ、確かにね。『さよならリグレット』のダンスを、今思い出してしまいましたが。

*1:映画評論家・藤崎康氏のこと。著書に『戦争の映画史 恐怖と快楽のフィルム学』など。大変良い勉強にもなったというのは間違いありませんが、下らないと思った映画はガラクタ呼ばわりという姿勢がスリリングで、とても楽しい授業でした。現在はWEBRONZA+で連載をなさっているほか、シャブロル論を執筆中とのこと。

*2:このあたりは監督の著書『なぜぼくはドキュメンタリーを撮るのか』に明るい。撮影秘話や制作のメソッドもさることながら、監督の人柄が見えるのも興味深い。多義的な名著です。

*3:筆者は4/28に『KOTOKO』を鑑賞。ぼくは『セイジ』を観ていないので比較は出来ませんが、確かにCoccoファン、塚本晋也ファンは一見の価値があると思いました。久しぶりに、ダイレクトな乱暴さのある映画を観て楽しかったし疲れたなあ、というのが個人的な感想。省略と偏狂のメリハリがかなり極端なので好き嫌いは分かれる。ぼくはやや好き。

*4:DVD特典として、橋口亮輔監督、リリー・フランキー木村多江の3人によるオーディオコメンタリーが収録されてます。

*5:ウーピーゴールドバーガー・辛口のジンジャーエール・ナタリーポテートマン(¥900)。

*6:さばさんはぼくのことを「さんちゃん」と呼ぶ。大学1年の時、アダム・サンドラーに似ているという理由でそういうあだ名がついたのだ。似てないと思うんだけどな……当時坊主だったからかな。

*7:オーディトリウム渋谷でのロングランは5/4で終わってしまいましたが、7月頃、下高井戸シネマでかかる予定のようです。